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おでんについて

 

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畑江・香西 (2011) を参考に,おでんについての検討を試みます。

調理学 (第2版)(スタンダード栄養・食物シリーズ6)

調理学 (第2版)(スタンダード栄養・食物シリーズ6)

 

 

調味料の浸透について

調味料は半透性が保たれている生の野菜には中まで入っていかない。加熱されて細胞の半透性が失われると調味料は拡散によって内部まで入っていき味がつく。生のジャガイモと加熱したジャガイモを食塩水に浸すと,生の場合は食塩はごく表面にしかついていないが,加熱した場合は内部まで食塩が入っている。

ご存じの通り,植物細胞の半透性をもたらしているのはリン脂質の二重膜である細胞膜であある。従って細胞膜が破壊される温度にまで上昇させればよい。

同書の別の箇所に

加熱した野菜の硬さは,硬化と軟化の兼ね合いで決まる。硬化は主として50-80℃の比較的低温域で起こり,特に60-70℃で顕著にみられる。この温度 範囲では細胞膜の機能が低下し,カリウムイオンなどの電解質が膜の外に出て細胞壁のイオン強度が高まり,ペクチンエステラーゼが活性化される。ペクチンエステラーゼによりペクチンの脱エステル反応が起こり,そこにカルシウムイオンやマグネシウムイオンのような二価の金属イオンが結合し,ペクチン鎖間に新た な架橋行動が生成される。また,エステル化度が低下したペクチンではβ脱離が起こりにくくなる。その結果として,野菜が硬化すると考えられている。

という記述があるので,おそらく50℃以上では細胞膜は半透性を失っているのであろう。不可逆変化か可逆変化かはわからないが,おそらくリン脂質の流動性上昇によるものであるから,不可逆だと考えられる。

野菜の加熱について

以上を考慮すると,野菜をスープと一緒に煮込む必要性は無いという結論に至る。すなわち,スープを調味しつつ,他方で野菜を電子レンジなどで加熱すれば,より熱効率のよいかたちで野菜を加熱することができる。

一旦加熱して細胞膜を破壊してしまえば,スープに入れて放置することにより(加熱せずとも)調味料を野菜中に浸透させることができる。

ただし,上述したとおり,このとき硬化現象が起きる。これを避けるため,野菜はレンジで一気に加熱してから,95℃程度の高温のスープに投入するのが適切であろう。

なお,識者によれば「切り込みを入れる(乱切り)ことによって味の浸透が速まる」とのことであるので,その技術も併用すべきである。

調味料の添加順序について

調味順序は,さ(砂糖)し(塩)す(酢)せ(醤油)そ(味噌)の順といわれる。砂糖と食塩の分子量を比べると砂糖の方が食塩より大きく,拡散速度も砂糖の方が食塩より小さいため,味のしみ込みが遅い。そこで,このようなことが言われたのであろう。そのほかは香りを残すために長く煮ることを避けて,このようにいわれている。煮物に味をつける場合に醤油は全部加えずに一部を残しておき,最後に加えるのも,香りを残すためである。

一般に,塩を先に入れると砂糖のしみ込みを妨げるという説がきかれるが,実験によるとこのようなことはまったくない。それぞれ独立に内部へしみ込む。

まあ,香りはどうでもいいので全部まとめて雑に入れていきたい。

そのほか

識者から寄せられたコメントに,「野菜は常に水中に浸かった状態にし,煮ている際に水分が減少した場合には継ぎ足すこと」というものがあった。これはおそらく調味料の流動性を高めて野菜への味の浸透を均一にするためであろう。

 

 


 

 

とここまで書いて記事を公開したところで,「そもそも味の浸透においては細胞へ膜を破壊する必要はあるのか?」という疑問に至りました。

すなわち,浸透圧は温度に比例するので,温度を上昇させて浸透圧を高めてやることによって,高張液中に浸した野菜細胞から水分が流出します。十分に浸透圧が高ければ,細胞壁と細胞膜の間に間隙が生じる(原形質分離)でしょうから,この間隙にスープが浸透すれば十分なのではないか。

ただしこの場合,温度が低下するにつれて浸透圧が減少するので,再び味は野菜から逃げていくと考えられます。

いずれにしても,これらの精確な議論のためには,半透性の失われる温度,原形質分離が起きるのに必要な浸透圧,などの定量的な情報が必要でしょう。