構造主義的つくりおき
この記事は つくりおき.il Advent Calendar の 18 日目の記事ですが,同時に
kaiteki.hateblo.jpへのアンサーソングでもあります。
構造主義的にカレーを理解するという試みは以前から行われてきました [Kaiteki, 2016] が,それらの試みにはいくつかの問題がありますので,本記事ではより適切な構造を提唱したいと思います。
序論において構造主義の意義を確認した後,第 2 章でカレーの構造について議論し,第 3 章では構造に基づいておいしいカレーを作っていきます。
序論:構造主義とは何か?
知りません。
が,Wikipedia を読んだところ,どうやら群論で出てくるアレっぽいです。従って群論を例に,構造主義の理解を試みましょう。
簡単のために群ではなく半群を取り扱います。
Wikipedia によると(半群 - Wikipedia)
とのことです。Wikipedia は便利ですね。ポイントは,ここに「構造」という言葉が出てきていることです。つまり半群は構造主義的に構成されています。
どういうことかというと,半群を考える上で,「なにについて考えているか」ということは重要ではないのです。個々の要素が重要なのではなく,その要素のあいだの演算と呼ばれる「関係」に着目しているのです。
つまり,1, 2, 3, ... という自然数であっても,りんご・バナナ・キウイ・……という果物であっても,あるいは「快適な生活」「うどん」「ひとで」「moznion」のような抽象的概念であっても,それらの上に適切な構造を考えられれば(半群の構造を入れることができれば)それらは半群となるのです。*1
一つ一つの要素に着目するのでは無く,このようにして,さまざまな現象にたいして個々の要素を一切とりあつかわず,その間の関係だけを抽出するのが構造主義の立場です自然数,複素数,無,などさまざまなものを統一的に「群」として扱う手法に,構造主義の表れを見ることが出来ます。
カレーについても同様で,「カレー」という概念には様々なものがあります。
「ククレカレー」「ゴーゴーカレー」「ドライカレー」「タンカレー」「カレーの王子様」などが全て「カレー」であるという現象を理解するには,カレーの構成要素を分解していく立場(還元主義)からでは困難であり,構造主義に基づいた理解が必要となっているのです。
もちろんこれは全部ウソで,さっき Wikipedia 読んでおもいついたデタラメです。
まあやっていきましょう。
カレー構造
カレーを以下のように定義します。すなわち,カレーとは
- 集合*2 F = {F1, F2, F3, ...} およびその上に自然に定義された演算 × と演算+
- F に作用する演算 H
- 適切に定義された*3 「人間」 ={口,鼻,香ばしい,旨い,腹にたまる}
の間の関係であって,カレーの公理
- 口(H(F1)) = うまい
- 鼻(F2) = 香ばしい
- 口(F3) = 腹にたまる
- 口(F3 × H(F1 + F2)) = うまい *4
を満たすものである。
ここで一般的には
- H は「加熱」
- F1 は「加熱するとうまくなるもの」
- F2 は「香ばしいもの」
- F3 は「腹にたまるもの」
と呼ばれ,また H(F1 + F2) あるいは F3 × H(F1 + F2) のことをカレーと呼ぶ。
つまり,カレーとは,加熱すると旨くなるものに香ばしいものを加えて加熱したものを,腹にたまるものにかけたものである。
具体例
つくりおき学においては具体例こそが全てです。なぜなら,抽象的な議論は,よりおいしく,よりお手軽なつくりおきをやっていくためにあるものです。衒学的な,あるいは形而上学的な議論は慎まなければなりません。
したがってやっていきましょう。
これは,加熱すると旨くなるもの F1 です。一般には「昨日のカレー」と呼ばれます。
これは,香ばしいもの F2 です。一般には「スパイス」と呼ばれます。
これらの間には自然な形で演算「+」が定義できて,すなわち F1 に F2 を加えることができます。これが F1 + F2 です。
加えました。これに加熱演算子 H を作用させます。
加熱されたので H(F1 + F2) が構成されました。
ときおりこれのことをカレーと呼ぶことがありますので混乱しないようにしましょう。
こちらが腹にたまるもの F3 です。一般には冷凍ごはんなどと呼ばれます。
これらの間には,自然なかたちで演算「×」が定義できます。
すなわち,かけることができます。
これはカレーですね?
したがって,カレーの公理を満たすものとしてカレーが現象されました。
追記 (19 Dec 2016 1:30 IST)
インドのカレーは、腹にたまるものに「かける」をしない気がするけど、、
— 燦々と (@hari_moga) 2016年12月18日
「×」は集合 F に自然に入る積構造を考えていますので,より正確には「組み合わせる」と理解するとよい。具体的には
- ごはん(パスタ)×カレー = ごはん(パスタ)にカレーをかける
- パン(ナン)×カレー = カレーをパン(ナン)につける
などが考えられます。(ここでカレーは H(F1×F2) の意味)
ただし,カレーパンはカレーではなくパンです。カレーピラフはカレーではなくピラフです(生米は F の要素ではない)。また,ごはん×カレー として,ご飯とカレーをフライパンで炒める,を入れると,ドライカレーができます。
*1:たとえば「快適な生活」「うどん」からなる群にたいして,「快適な生活×うどん=うどん」「うどん×快適な生活=快適な生活」……といった構造を入れることによって半群が構成される
*2:この集合 F は厳密には「人間」の「口」に対して 口(F) が定義可能であることにより定義される。この定義が構造主義的であることに注意せよ。
*3:「人間」を構造主義的に理解する試みは,以前から抽象つくりおき学の分野で盛んに行われていますが,実際的には「人間」は前提として与えられていますので,ここでは「人間」の構造については議論しないものとします。
*4:訂正 (19 Dec 2016 1:30 IST) 第4の公理は不要である。F3 × H(F1+F2) が口の値域となっていることは×の定義に含んでいる。